SIPECジャーナル

ホームレスから考える参政権

2019.07.31
その他

「ここに主権が国民に存することを宣言し、この憲法を確定する。そもそも国政は、国民の厳粛な信託によるものであつて、その権威は国民に由来し、その権力は国民の代表者がこれを行使し、その福利は国民がこれを享受する。これは人類普遍の原理であり、この憲法は、かかる原理に基くものである。われらは、これに反する一切の憲法、法令及び詔勅を排除する」(日本国憲法 前文より抜粋)

誰もが知っているように、日本国は、国民主権の国家である。「国政に関する最終的決定権」である「主権」は、国民にあり、選挙を通じてそれが実現される。
2016年には、参政権が18歳以上に引き下げられ、より多くの国民が最終決定者となった。
しかし、そんな中でも実質的に参政権を持たない人がいる。住居を持たず、野宿生活を余儀なくされるホームレスの方たちだ。選挙のお知らせは、住民登録が必要なため、家を持たないホームレスは実質的に選挙権のはく奪状態にある。一部ではこの状態を問題視する動きもあるが、平成24年の国会答弁では、住所を持たない人たちが投票できない現状は、「合理的」であるとの政府見解が示されており、状況は変わっていない。(脚注1)

2019年7月20日(土)の午後、私たち二人は、ホームレスの生の声を聞くべく、代々木公園へと向かった。雨がちらつく中、東屋の下で、寝そべる数名のホームレスと思しき人たちを見つけた。その中で唯一起きていた方に話しかける。話してみると、とても気さくな方で、すぐ打ち解けられた。
私たちが話しかけたのは、42歳のUさん(仮名)。来年の2月でホームレス歴10年目を迎える大ベテランだ。普段は南千住で斡旋された掃除のバイトをしているらしい。
「梅雨の時期は仕事が減って困るよ。ただ、雨は嫌いじゃない。台風の日なんて傘で水をガードしながら遊んでるよ」
冗談を飛ばすUさんの笑顔は若々しく、とても四十路を超えているとは思えなかった。
しばらく三人で、世間話を楽しんだ。Uさんは、政治や経済、芸能の話にかなり詳しく、話が途切れることはなかった。また、自殺したホームレス仲間を見た話や、宗教に勧誘された話など、普段周りにいる人間からは決して聞くことのできない興味深い話を数多く伺った。

「ちょっと失礼」
しばらくすると、Uさんはタバコを取り出し、くゆらせ始めた。私たちはここぞとばかりに、質問を投げかける。
「去年の10月にたばこ税が上がりましたね。どう思われますか?」
「消費税増税に、タバコ税増税、庶民を苦しめる増税にはもちろん反対だね」
Uさんは、はっきりとした口調でそう述べた。
「では、増税を止めるために選挙に行かないんですか?」
「選挙のお知らせは栃木の実家に届いてるだろう。でもねぇ......」
Uさんには、実家に帰れない特別な事情があるようだった。選挙のお知らせを受け取ることができなければ、投票することはできない。
投票しなければ、Uさんの考えが国政に反映されることがないし、国政に関する最終的決定者にもなりえない。
それからも様々な話を伺ったが、Uさんからは政治に対する諦念を感じた。自分が関われない政治に対して関心を持てというのは無理な話なのかもしれない。

前回の参院選における投票率は、50%を切り、19歳の投票率は、わずか28.05%であった。(脚注2)
これは「もったいない」。参政権を持っていることは幸福なことだ。今も昔も参政権がほしくてたまらない人は大勢いる。
権利を持っている時点で我々は日本国の一員であり、そこには責任が生じる。投票に行かないということは、権利を放棄し、責任を放棄しているのと同義だ。
未来を担う大学生である我々が、国政に関する最終的決定者であるという自覚を持つべきだ。

脚注1 :衆議院答弁第一二〇号http://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_shitsumon.nsf/html/shitsumon/b180120.htm
脚注2:読売新聞 https://www.yomiuri.co.jp/election/sangiin/20190723-OYT1T50210/

いずれも7月30日閲覧

(文責:川島、黒柳)