
システムエンジニア
三菱UFJインフォメーションテクノロジー株式会社 米州システム部
白木 見佳さん
オーストラリア国立大学で学生に国際法全般(国際安全保障法、国際人道法、国際公法など)について教えています。講義の前の準備としては、まず話の順番を考え、次に題材となる法律の規定や裁判判決の引用文、関連する写真・イメージなどを集めてパワーポイントを作成します。講師を始めた頃は詳細な講義ノートを用意していたのですが、講義するのに慣れてきたからか、今では全く使わなくなってしまいました。
実際の講義では「ソクラテス・メソッド」を使い、学生たちに問いかけながら議論形式で授業を進めます。その過程で、重要な点や私がメッセージとして伝えたいことを学生が理解してくれたと感じた瞬間に、「教える」ことへの手応えを得て、それが面白さにつながっているように思います。
オーストラリアの学生は日本の学生と比べると議論の仕方がとても巧みです。幼稚園の時から教育の一環として議論をさせるので議論にとても慣れていて、相手をさえぎるわけでなく、タイミング良く自分の意見を発言しますし、意見量や質の高さなどは驚くほどです。とても積極的な学生たちに囲まれて、私も刺激を受けるほどです。
シドニー大学の博士課程で書いた論文をまとめた著書『International Law on Peacekeeping: A Study of Article 40 of the UN Charter』(2009年)は、国連のPKO活動に関わる国際法上の枠組みについて詳細に分析したものです。
私の専門は安全保障法なので、オーストラリア国防軍や日本の自衛隊関係者など、実際に国際紛争に関わっている人たちに対して、国際法について教えることもあります。こうした人たちに対しては常に「法律は難しいと考えられがちだけれど、自分やほかの人の命が危険にさらされているような数秒を争う場面で、どう動くべきか判断するための拠り所となるのが法律であり、法律はとてもわかりやすいものなのだ」ということを理解してもらいたいと思いながら、講義しています。
また国際紛争を中心に、現代もしくは将来の諸問題について、国際法の観点からとことん突き詰めた研究を行い、それを出版や発表することを通じて、世界中の多くの研究者や実務家とも関わっています。
私はほかにも、オーストラリア国立大学を含む3つの大学によって、オーストラリアにおける日本法の研究、教育、公的活動を促進することを目的として設立された「ANJeL(The Australian Network for Japanese Law)」と「軍事・安全保障法センター」の共同ディレクターとして、予算を組み、資金集めなどして、会議や多くのセミナーを主催しています。
大学においても、また研究機関においても国際的な感覚をもって仕事をするためには、さまざまな資質や能力が必要となります。研究を通して新しい知識を創造する能力はもちろんのこと、建設的な対人関係を築く能力や交渉能力、事務処理能力も必要です。
海外で外国人に囲まれているからこそ、日本人の特性を良く感じることがあります。例えば日本人は「modest(ひかえめ)」だと評されることがありますが、日本人はこれをマイナスの意味に捉えている人が多いのではないでしょうか。ところがオーストラリアはもちろん、欧州や東南アジアなど、多くの国の人たちが好感を持って日本人の奥ゆかしさ(modesty)を評価しています。ひかえめだからこそ信頼され、国際社会では紛争の仲介役として、解決策や打開案を提案できる立場に立つこともできるのです。もっと日本人がこの特性を生かして国際社会に出て行けば、活躍できる場は多いのではないかと思っています。
9時前に娘を学校に送り、その足で大学のオフィスに向かうみ
大学のオフィスやその他の場所で仕事し、仕事しながら持参したお弁当を食べる
娘を迎えに行くため小学校へ。
そのために14:30以降の仕事は極力入れないようにしている
帰宅後、娘と一緒にアイスを食べて休憩。
夕食まで論文作成など研究にあてる
家族との時間
娘の就寝後、研究を再開
大学に所属しているとは言っても、基本的には自営業のようなもの。研究や講義への意欲だけでなく、幅広い分野で発揮できる総合的な資質や能力、例えば研究を通して新しい知識を創造する力、それを効果的に表現する力、建設的な対人関係を築く力、交渉力なども必要。
2000年国際政治学科卒業。外務省専門職の一次試験に合格していたが、「なりたい職業は外交官ではない」と直感。青山学院大学大学院に1年間進学。2001年にシドニー大学に留学して、修士・博士課程へと進み、現職に。若い頃から子育てに参加したいと思っていたので、生活スタイルの融通がきく海外での大学教員生活には満足している。