松吉 由希子
LIVE OVERSEAS | 海外に住んで働く
国際公務員
国際連合教育科学文化機関(UNESCO)
ヨルダン・アンマン事務所教育部門
松吉 由希子さん
国連機関の教育部門の仕事って?
発展途上国などの相手国政府と協力し合いながら持続的な教育制度を整えていくことに尽力する。また教育の機会を拡大するなど、人々の教育を受ける権利のために活動し、ひいては責任のあるグローバル・シチズン(地球市民)を育てる教育を通じて世界平和にも貢献する。

アフガニスタンで女性の教育のために奮闘

 ニューヨークにあるコロンビア大学の大学院に留学して、カザフスタンなどでフィールドワークをしながら発展途上国の貧困や課題についての研究をしていた時に、世界貿易センタービルへのテロ事件が起きました。非常に身近に起きた悲劇を見過ごすことはできず、自分に何かできることはないかと考え、留学を打ち切って国際機関で働くことを決意しました。
 最初に働いた国際機関は国連児童基金(ユニセフ)です。アフガニスタンに赴いて、タリバンによって崩壊した教育制度を政府と協力し合いながらつくっていきました。特にタリバンは女性への教育を禁止していたので、現地メディアと協力しながら教育の大切さを啓蒙するキャンペーンを実施するなどして、教育の場に来てもらうようにしました。その後プロジェクトの効果を検証するために参加者にインタビューを行った際、高齢になるまで教育を受けたことがなかった女性が「病院に行った時に表示が読めず、自分がどこに行けばいいのか分からなくて、これまでは恥ずかしい思いをたくさんしてきましたが、文字が読めるようになって人に聞かなくても分かるようになったことがとても嬉しかった」「算数を教わって、市場での値段交渉でだまされることがなくなった」などと喜ぶ声を聞いた時は、とても嬉しくやりがいにつながっていきました。

現場で有効な手立てを打つためには経験が必要

 現在私はユネスコのヨルダン・アンマン事務所教育部門でチーフ職についています。教育課題に対してどんな手だてが有効なのか、現地調査をして政策協議を行い、ユネスコ本部と折衝して資金供与の当てを探し、企画案をドラフティングしなければならず、幅広い知見と柔軟な発想が求められます。ミッドキャリアと呼ばれる管理職なので、若手のスタッフが政府との交渉ごとで行き詰まった時には交渉術のアドバイスをしたり、さまざまな国をバックグラウンドに持つスタッフの調整役を務めることも仕事のひとつになっています。
 アラブの人たちはとても議論好きです。議論のために議論をすることはしょっちゅうで、1日中意見を戦わせるとかなりエネルギーを消耗します。こうした中で相手も自分も納得したプロジェクトを立ち上げ、きちんと結果を出すためには多くの経験を積んで柔軟性などを身につけていく必要があります。またユネスコ内部で実務者用のトレーニングコースが設けられているので、研修を受けることも可能です。私も年に一度はミッドキャリア向けのマネジメントコースを受け、さまざまな場所で働く人たちと経験を共有し合うなどしています。

松吉 由希子さん

相手国政府に協力して制度設計を行う

 国連の各機関が行う教育支援活動は、相手国政府が教育政策を立てるところから始まります。例えば、私が現在いるヨルダンでは、シリア危機を受けて難民が多数押し寄せ、学校が不足する事態に陥っています。今後どれだけの学校をつくるのか、またヨルダンの子どもと難民の子どもたちを一緒に勉強させるのか、その場合多様な生徒を教える先生へのトレーニングをどうするのかなど、一つひとつの課題をヨルダンの教育省と一緒に検討し、制度設計をしていきます。このように政府と協力しながら教育環境を整えていくところは、現地に学校を設立するような草の根活動を行うNGOと大きく異なる点かもしれません。
 またヨルダンでは高等教育を受けられなかった若者が仕事に就けず、不満分子となって過激派となることが危惧されています。そこでユネスコが奨学金を出して政府が認定する職業訓練校で勉強してもらい、エンジニアなどへの道を開くことも行っています。
 人間形成の基本は教育です。テロ活動に飲み込まれてしまう若者の多くは、きちんとした教育を受けていないために広い視野で現状を把握することができていないことが多いと思います。発展途上国において、教育基盤を整備することは非常に重要な使命を帯びていると感じています。

松吉 由希子さん

マストアイテム

予定を書き込めるカレンダー

予定を書き込めるカレンダー
毎日が忙しく、飛ぶように日々が過ぎていくので、スケジュールを書き込むことができて見やすいカレンダーはなくてはなりません。

この仕事に就くには...?

ユネスコでは定期採用の制度はない。不定期にある募集のタイミングを逃さないこと。修士号取得は最低限必要で、英語の他に国連公用語(フランス語、スペイン語等)ができると有利。経験が重視されることも多いため、松吉さんの場合は、まず外務省のJPO派遣制度(将来的に国際機関で正規職員として働くことを目指す若手日本人を対象に、期間を設けて国際機関に職員として派遣し経験を積んでもらう制度)を経て、その後志望するポストを求めていった。

松吉 由希子さん

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Yukiko Matsuyoshi

国際連合教育科学文化機関(UNESCO)
ヨルダン・アンマン事務所教育部門
※2018年取材時

国際政治経済学部国際経済学科卒業。英国サセックス大学大学院修士課程卒業、米国コロンビア大学大学院博士課程にフルブライト奨学生で留学。2002年外務省のJPO試験合格。2003年ユニセフのアフガニスタン事務所に着任。2年間教育活動に携わる。その後、ユネスコ本部(パリ)勤務を経て2005年外務省職員中途採用試験に合格し、外務省本省及び在ベトナム大使館勤務。2011年から再度国連に戻り、再びアフガニスタンに赴く。2016年10月からユネスコのヨルダン・アンマン事務所教育部門チーフとして勤務。

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