新楽 直樹
CONDUCT BUSINESS WITH THE WORLD | 世界を相手にビジネスする
映像翻訳者
日本映像翻訳アカデミー(JVTA)
代表取締役
新楽 直樹さん
映像翻訳者って?
海外で制作された映画やテレビドラマ、ドキュメンタリー、音楽、スポーツなどの映像コンテンツに字幕をつけたり、吹き替え原稿を作成したりする「映像」の分野に特化した翻訳者。
語学力だけでなく、リサーチ力や表現力、内容によっては専門知識が求められることもある。

映像を理解してもらうために言葉を駆使するプロ

 映画やテレビ番組だけでなく、最近はインターネットの動画サイトなど、世界中から発信されるさまざまな映像を私たちは日々目にしています。しかしそこで何が語られているのかが分からなければ、映像を楽しむことも、何を伝えたいのかを知ることもできません。
 そこで必要になるのが、映像に字幕をつけたり、吹き替えたりしてローカライズすること。その仕事を担うのが映像翻訳者です。語学力を求められますが、それはプロになるための必要な要素の一つにすぎません。「日本映像翻訳アカデミー(JVTA)」で職業訓練を受けている受講生やプロになった方々の平均TOEICスコアは860点前後です。しかしそれは絶対条件ではなく「映画やドラマが大好きでよく観ている」「日本語の文章を書くのが好き」といった資質を備えた方がプロとして成功する傾向があります。そしてプロとなった後も「どうすればもっと観る人に響くか、より伝わる言葉は何か」を探し求め、映像作品と言葉に向き合い続けるのが映像翻訳者という仕事です。

年々広がりをみせている映像翻訳マーケット

 私がJVTAを創業したのは1996年のこと。実はスクールを立ち上げる少し前に、総合商社に勤める大学時代のクラスメイトからこんな話を聞いたのです。「日本にもうすぐデジタル衛星放送300チャンネルの時代がやって来る。そのために今、石油や石炭を海外から買うように、大量のテレビ番組や映画の買い付けを始めたんだけど、それらのすべてに正しい日本語の字幕や吹き替えが必要なことを真剣に考えている人がいないんだ。どうしたらいい?」と。
 その当時、私は新卒で入社したオーディオ・ビジュアル機器のメーカーを辞め、学生時代にアルバイトをしていた雑誌編集の世界に身を置いていました。自ら編集プロダクションを立ち上げてさまざまな雑誌に関わりながら、知人が運営していた編集者やライターを養成する「編集の学校/文章の学校」というスクールの運営にも携わっていたのです。そうした職業経験に学友の言葉が重なって、「新たな需要に備えて映像翻訳者を育成する」というアイデアが生まれたのです。
 JVTAを創設するにあたっては、単なるカルチャー・スクールではなく、修了後の就業までをサポートする本格的な「職業訓練校」を目指しました。そこで、JVTAに併設するかたちで映像翻訳実務を受注する「メディア・トランスレーション・センター(MTC)」を置いたのです。MTCは国内外の映画配給会社やテレビ局、映像制作会社とコンタクトを取って業界の最新動向を掴むと共に、字幕や吹き替え翻訳の実務を受注して、プロ化した修了生に発注します。その受注・発注量は今日に至るまで拡大し続けています。
 映像翻訳マーケットはこれからも国内外で大きな広がりをみせるでしょう。海外から映像を輸入するだけでなく、日本が持つ豊かな映像コンテンツを欲している国や地域は世界中にあります。英語はもちろん、様々な言語を持つ国や地域の需要に応えられる映像翻訳者を養成していきたいと考えています。

映像翻訳者は「インターナショナリスト」

 大学時代に学んだことを活かして、少しでも社会に貢献したいと常々考えていました。その思いが現在の仕事につながったのだと感じています。自国の映像コンテンツを他国で紹介したり、他国の映像を鑑賞して泣いたり笑ったりすることは、とても重要な文化交流です。文化や世相、流行、宗教などを理解するのに、映像は最も有効な手段でしょう。
 例えば、今年で12回目を迎える国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)主催「難民映画祭」に、JVTAは第3回から関わり、修了生や受講生、社員が一丸となってボランティアで作品の字幕翻訳を行っています。ニュース報道だけでは伝わりづらい世界の難民事情も、映画では強いメッセージとなって伝わるのです。このプロジェクトにはとても意義がありますし、「世界のために何かしたい」と考えている映像翻訳者やそれを目指す人にとって、大きなモチベーションの一つになっていると実感しています。私自身、最も尊敬する人物のひとりである緒方貞子さんが高等弁務官を務めたUNHCRの仕事に関わることができて、非常に嬉しく、誇らしく思います。
 自動翻訳の技術が進み、「翻訳という仕事がなくなるのでは?」と尋ねられることがあります。しかし、映像翻訳は文字数の制限をクリアしたり、キャラクターやシーンに合ったフレーズを創作したりなど、極めて人間的でクリエイティブなスキルが不可欠です。今後、自動翻訳と協働する機会は増えると思いますが、「異なる文化背景を持つ国や地域の視聴者に、映像コンテンツの魅力を最大限に伝える字幕や吹き替えをつくる仕事」という意味では、映像翻訳者への期待はさらに高まるでしょう。
 大学時代、恩師のひとりから「インターナショナリストになれ」という言葉をいただいたことがあります。インターナショナリストとは、自国のことを良く知った上で、他の国や地域の人々と向き合うことができる人のこと。自国の文化に愛情と誇りを抱きつつ他の国や地域の文化にも深い敬意を示す―――。映像翻訳は、まさにインターナショナリストとして関わるべき仕事だと思っています。

新楽直樹さん

ある1日のスケジュール

  • 11:00〜12:00

    ロサンゼルス支社とネットミーティング

  • 13:00〜15:00

    来客対応、事業計画関連の資料作成など

  • 15:00〜16:00

    書評のための原稿執筆

  • 16:00〜18:00

    自社で映像翻訳を手がけた作品の鑑賞など

  • 18:00〜21:20

    スクール部門「映像翻訳コース」でのレクチャー準備とレクチャー/p>

マストアイテム

ビジネス書

ビジネス書
会社経営者として、経営ノウハウを本から学んでいる。紙袋に入れて常に数冊携行し、移動時間を有効活用している。「日経ビジネスアソシエ」などのビジネス誌に書評家として書評を提供することも。

この仕事に就くには...?

英語力や日本語解釈力のほか、表現力、取材・調査力、コンテンツ解釈力、ビジネス対応力などが求められる。社会経験を積んだ後、専門スクール等で専門知識やノウハウを身に着け、プロデビュー後に実績を積んでいくキャリアパスが一般的。

新楽直樹さん

新楽 直樹さん
Naoki Niira

日本映像翻訳アカデミー(JVTA)
代表取締役
※2017年取材時

1987年国際政治学科卒業、日本ビクター(現・JVCケンウッド)に入社。約2年間勤務した後に退職し、雑誌編集プロダクションに編集記者として転職。約2年間勤務後、自ら編集プロダクションを起業し、講談社など大手出版社の雑誌制作に関わる。1996年に日本映像翻訳アカデミー(JVTA)を設立。現在は日本だけでなくロサンゼルスとモスクワでも翻訳会社を運営。2016年には国際コミュニケーションアーツ学院(GCAI)を設立し、グローバル・パブリシスト(海外に向けて英語で力強く情報を発信できる人材)を養成している。

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