システムエンジニア
三菱UFJインフォメーションテクノロジー株式会社 米州システム部
白木 見佳さん
JICAは外務省所管の独立行政法人です。外務省の政策方針に則りながら、途上国を支援するために、相手国政府とJICAの職員が協議をし、支援の内容を決めます。職員は途上国側のさまざまなニーズを聞きながら、日本が提供できるサービスのうち何が適しているのかを考え、選択して、中長期的な支援戦略を立てます。そしてその枠組みを基に、個別の各事業をデザインしていきます。
例えば私はエチオピア駐在中に水資源の開発に携わりましたが、2006年当時エチオピアで安全な水にアクセスできる人の割合は約20%しかいませんでした。そこで相手国政府のカウンターパートと共に、特に安全な水へのニーズが高い地域を選定し、地元の自治体やコミュニティーの声を聴きながら、給水施設の建設や維持管理のための技術協力のための事業のデザインを行いました。その過程では水源がどこにあるのか、地下水は安全か、コミュニティに維持管理のキャパシティが備わっているか等の観点から、開発コンサルタントと共に調査を行いました。概要がつかめたところで、どのエリアに何本井戸を掘るかなどの細かな内容を詰めて、事業内容を形成。また実施中の事業では進捗管理や評価を行って、自立発展させるための課題の抽出やこれを踏まえた事業継続の判断等を行いました。
JICAの事業は公共事業ですから、企業のように利益のためにイノベーションを創造していく構造があるわけではありません。予算はある程度安定しているので、気をぬくと現状維持や保守のスタンスに陥ってしまいがちです。しかしJICAのサービスを提供する途上国や、JICAを支える日本国民のニーズは時代とともに変化しており、これに適応しなければJICAの存在意義はなくなると感じています。
私が入団した約20年前は、教育・保健・食料の確保などの基本的人権を守るために必要なサービスすら享受できなかった人々への基本的社会サービスの提供が中心的な課題として扱われてきました。これらのニーズは未だに多くの国や地域で存在していますが、その一方でこの間に東南アジア、南アジア、アフリカに至るまで多くの開発途上国が経済成長を遂げ、途上国の開発ニーズがより多様化し、変化していることも事実です。また支援する側も中国などの新興国が存在感を強め、支援の枠組みにとどまらない積極的な外国投資等を行うようになっています。このような変化の中、日本の経験や強みを見つめなおし、日本ならではの支援とは何か、途上国が直面する新たな課題に対してどのように応えていくのか、といったことを常に考えるようにしています。例えばJICAは近年、中小企業を含むの日本の企業がビジネスとして途上国の開発課題の解決に寄与するための触媒的な事業を始めました。これは政府機関であるJICAだけでなく、民間企業が自らの技術や経験を活かして国際協力に参画してもらうための支援メニューですが、20年前は想像すらできないものでした。このようにJICAの職員には常に世界の変化にアンテナを張り、柔軟な姿勢で時代のニーズに適った役割を担っていく姿勢が求められています。
JICA内では2〜3年ごとに所属部署が変わります。配属場所は本部、地方、在外事務所などあらゆる可能性がある他、仕事の内容も個別事業のマネジメントから組織マネジメントまで様々です。私の場合、内閣官房や国際機関に出向し、他流試合をする機会も得ることができました。またキャリアアップのプロセスで自分の専門性を磨くこともできます。私は機構内の海外研修制度を利用して、ガバナンス分野の修士号を取得していたので、その知識を活かした仕事を行うことができました。ここでは、行政サービスの前提となる住民と行政の信頼関係の構築や、効果的な行政サービスの提供に資する様々なプロジェクトの事業形成や事業マネジメントの業務に携わりました。
その一環として携わったのが、ブータンでの仕事です。当時ブータンでは地方分権化が進められていましたが、権限移譲された自治体には住民のニーズに合ったサービスを提供するためのノウハウがありませんでした。日本で行政サービスのノウハウを最も有しているのは、他でもない地方自治体です。そこで、葉っぱビジネスで有名でブータンと自然環境が近い徳島県上勝町から協力を得て、同町の環境保全の取り組みや町のリソースを活用したイノベーティブな産業活性化の取り組みを紹介しました。その結果、ブータン政府に大変感謝されたのはもちろんのこと、当時、日本国内ので注目度が高かった「幸せの国ブータン」との交流が上勝町の活性化にもつながりました。途上国のローカルと日本のローカルを繋いだ結果、一方的な支援ではなく、双方の自治体の活性化に寄与できたことは、このJICAの仕事ならではの醍醐味だっと思います。
発展途上国の問題は複雑で、短期間で解決できることなどほとんどありません。自分が携わった事業の成果を自分の目で確認できないことも多いです。しかし事業のプロセスを通じて、途上国の人々のために貢献していることはいつも実感できます。また、日本を代表して途上国の人々と接することで、日本国民への尊敬と期待、そして感謝の気持ちを常に受け止めながら、JICAに与えられた役割を担っていくことが、大きな責任とやりがいとなっています。
※事業部の場合
メールをチェックし、対応
多部署が主催するランチ勉強会に参加
プロジェクト活動中のコンサルタントからの報告を受ける
新規プロジェクト公示のための業務指示書作成
新規プロジェクト形成のための現地調査方針確認会議(現地事務所とのテレビ会議)
飛行機仕様のイヤホン
出張時に長時間飛行機に乗る際は、だぼつく航空会社提供のイヤホンは搭乗後すぐに返却し、資料を入れるスペースをつくって資料を読み込みます。唯一のリラックスタイムが食事の時間。10年以上愛用しているこのイヤホンで迫力ある音響の映画を見ながら食事を楽しみます。
JICAには学部卒で入る人も多く、理系だけでなく文系の人も活躍できる仕事も多いが、自分の強みとなる分野をつくっておくことは大事。また開発援助の世界は国際的には修士号を取得することが一般的なので、国際公共の仕事に携わりたい場合は国内外の大学院で修士号を取得することは必須。JICAの場合は、薬師さんのように研修の一環として海外の大学院で修士号を取得する職員も多くいる。
2000年国際政治学科卒業、同年JICA入団。入団後、本部にて東南アジア、アフリカ等の地域の基礎教育、農村開発等の分野のプロジェクトマネジメント等に携わる。2005年~2008年のエチオピア事務所勤務後は、留学、内閣官房へ出向を経て、ガバナンス分野で事業マネジメントに従事。その後、企画部にてJICAの事業戦略形成に携わり、2016年より国連開発計画(UNDP)ニューヨーク本部に出向。2018年JICA本部の総務部に配属。英国サセックス大学国際開発学研究所で修士号取得(ガバナンスと開発)。